図5 電気自動車の実路で測定した結果とシャシダイナモメータ上での風速の違いによる転がり抵抗
図4 電気自動車の実路で測定した結果とシャシダイナモメータ上での風速の違い
 そこで,車両冷却ファンの風によるタイヤの冷却効果に的を絞って調べる目的で,エンジンのように大きな発熱体を持たない電気自動車を使って、車両冷却ファンの条件違いによる転がり抵抗差を調べてみました。風速の測定結果を図4に,また転がり抵抗の測定結果を図5に示します。前後のタイヤ直前の風速はA車の傾向とほぼ同じになりましたが、図4が示すように冷却ファンの形状違いでタイヤに当たる風速が異なっても,転がり抵抗にはそれほど大きな違いは生じていませんでした。
 タイヤ周囲にわずかでも風が流れることでタイヤ周辺の熱よどみが取り去られれば,タイヤ自身の回転で周辺の空気がかき回されることで,タイヤの発熱を周辺空気に逃がす効果が生じていたと考えられます。
 以上の点から,電動車の転がり抵抗測定ではタイヤを風で積極的に冷却することにそれほど大きな意味はなさそうで,熱だまりを解消できる程度の風が当たっていれば良いと考えます。一方エンジン車では、エンジンや排気系の熱の影響をタイヤが受けることが多いので,実走行のタイヤ作動条件との同等性を確保することがより重要と考えます。つまりシャシダイナモ上で実走行条件での転がり抵抗を測定する上では、「実路の向かい風相当の風速が前後のタイヤに当たること」が重要と思われます。
 以上の点から、シャシダイナモによる転がり抵抗測定の推奨条件としては、前輪タイヤは車速の80 %以上の風が当たるようにし,後輪タイヤに当たる風速は概ね車速の60 %程度になるようにして、台上試験を行うのが実走行時を考えると理想的といえるでしょう。エンジン熱の影響をタイヤが受けるという点では,800 mm幅の車両冷却ファンでは,ファンの風のかなりの部分がエンジンルームに入った後に床下に広く流れ出るので,エンジン排熱がよりタイヤに伝わりやすいといえます。
 結論的にいうと、床下の気流条件を実走行相当に近付けるには,車両幅相当の開口部を有する冷却ファンの風を試験車に当てるのが望ましいことになります。また車両冷却ファンからの風量や風速が不足する場合には、タイヤ冷却の効果を補う観点から、タイヤ用の専用冷却ファン(風量制御付き)を前後輪のタイヤ近傍に設置する方法が有効になると考えられます。ただしその場合には,リア側タイヤに対して車速相当の風を直接当ててしまうと,実走行時よりも過冷却になってしまうで、注意が必要です。。
図3 試験車Bの実路で測定した結果とシャシダイナモメータ上での風速の違い

1 車両冷却風の実験に使用した車両冷却ファン開口部の形状


 試験車Bにおけるシャシダイナモメータ上での風速の違いを図3に示します。B車はオフロードタイプなのでフロントバンパーが通常の車より高くなった車です。その結果,800 mm幅のファンでは,風の大半がそのまま床下を通過してしまい、フロントタイヤにはほとんど風が当たっていないと思われます。その影響もあって,リア側のタイヤに当たる風速はむしろA車よりも多くなりました。また車重の大きなB車は、タイヤサイズが大きいこともあって,タイヤ自体の総発熱がA車よりも大きいと考えられます。さらに冷却風の当たる面積も大きくなるので、タイヤ冷却における冷却風の影響はA車よりも大きいと思われます。
 一方,凸型開口部の車両冷却ファンを使った場合は,車両床下に流入する風量がもともと多いことから,床上50 mmのところでも風速が出ています。実走行時は,境界面の影響が車両床下に特徴的に現れるために,床上直上での風速が高くなっていると考えられますが,車両冷却ファン開口部が凸型形状になったことで,実路走行に近い気流条件が台上でも再現できたものと考えます。
 ガソリン車であるA車とB車では,エンジンルームに入って昇温した気流が床下に抜けてタイヤに当たる可能性が高いと思われます。特に年式が古く床下アンダーカバーが少ないB車の場合は,エンジンルームに入った風がそのまま床下に流れ出やすい構造といえます。このことから冷却風がエンジンの熱をタイヤにより多く伝えることで,タイヤ温度に影響しやすいことが考えられます。冷却ファンの風は、もともとの役割であるエンジンを冷却する効果のほかに,タイヤを温めるという作用をもたらすことがあります。それらの影響度は,ファン開口部の形状とともに車体構造にも左右されるので,台上試験で冷却風の風速条件のみを規定することはなかなか難しいと考えられます。

図2 試験車Aの実路で測定した結果とシャシダイナモメータ上での風速の違い
 試験車Aを使って,タイヤ前方150 mmのポイントにおける実路での風速の測定結果と、同じ車でシャシダイナモメータ上で測定した結果を図2に比較して示しています。フロントタイヤの前方では,開口部が1800 mm幅のファンの条件と凸型開口部のファンの条件が共に実路の風速に近いことがわかりました。しかし開口部800 mm幅のファンでは同じポイントでの風速が大幅に低下しています。一方,リアタイヤ前方で測定した結果では,凸型開口部のファンでは実路と同等の風速が得られたのに対して,1800 mm幅のファン及び800 mm幅のファンでは、共に実路走行時よりも低い風速となりました。1800 mm幅の条件では,車両固定の都合で車両から1 m手前にファンの開口部がきているために,気流の拡散で車両床下を流れる風速が低下したことが考えられます。
 一方800 mm幅のファンの条件では,開口幅が狭いことに加えて,床より200 mm高い位置に開口部があったことから,直接床下に入り込む風量が低下した一方、エンジンルーム内を通過した気流が床下で左右方向に拡散して車両外側に流出しやすくなったことがこの違いを生んだ原因と考えられます。

 

 実路で転がり抵抗を測定する際のタイヤ周辺の気流条件をシャシダイナモメータ上で再現できれば理想的です。しかし現実的には技術面や費用の面などで難しい問題があります。そこで有効な対策方法を探るために、シャシダイナモ上の試験車のタイヤに対する冷却風の当たり方の状態や、気流条件の違いが試験車の転がり抵抗に及ぼす影響などについて実験調査し,その結果を基にしてタイヤへの風の当て方の要件(あるいは配慮事項)を規格に盛り込めないか検討することにしました。
 シャシダイナモメータ試験では、実走行時の向かい風の条件を代用するものとして、車速比例型の車両冷却ファンを用いることになっています。しかし台上試験では、実走行時と違って車両に対する路面(床面)の相対的な動きがないので,たとえ一様な風を試験車の前面に当てても、境界面の条件が実走行時とは異なってきます。すなわち実路走行時では、車両が実際に移動することで車体との相対風速が発生しますが、室内試験では床面が固定なので、風は送風機からのものだけになります。つまり台上試験での冷却風は、テストコース上とは同等な条件にはなりません。
 エンジンや排気管の熱の一部も冷却風に乗ってタイヤに当たり熱を伝えることで、タイヤ温度に影響してきますが,吹き出し口の形状や風量にばらつきのある車両冷却ファンからの風と実走行の向かい風とでは、タイヤ温度に対する影響度も異なってくるはずです。
 そこで室内試験におけるタイヤ冷却風条件の状態を調べるために,図1に示す3種類の開口部を冷却ファンに取り付けて、前後のタイヤ当る風速の状態を調査し,車両冷却ファンからの風が実路走行時にどの程度まで近づけられているか実験を行いました。

 

4.路上走行抵抗相当の冷却風をシャシダイナモ上で再現するための実験的検討


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技術解説

技術解説ーシャシダイナモメータによる車両評価(Part2)ーシャシダイナモ続編版
       
   4WDシャシダイナモメータを用いた台上での試験車転がり抵抗測定方法ー7
                                        シャシダイナモ試験をJATAに委託するには
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